戦略経営の実践(経営者リレー講義)第8回

2012年11月17日(土)

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国際経営特殊講義:戦略経営の実践
濱田 初美 教授
特別講師
新日鐡住金株式会社
三村 明夫

新日鐡住金株式会社の経営戦略

以下は、当日の講義風景と講師の記念色紙、受講した院生のレポートです。

三村明夫氏の経営哲学 日本企業の日本人経営者からリーダーシップのあり方を学ぶ

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三村氏登壇時のあの張りつめた空気。そこに日本経済の重鎮のカリスマ性をみたような気がする。第一印象は経営者というより政治家という印象を受けた。そして静かにプレゼンテーションが始まった。

プレゼンテーションとは何か?まさにそれを証明する3時間であった。三村氏はパワーポイントを使わない。そこには映像も画像もない。あるのは三村氏の存在とそして語り部である。これが本当のプレゼンテーションである。そしてこれが本当のメッセージの伝え方なのだ。

三村氏のリーダーシップとはイノベーションである。そして彼のイノベーションの定義は矛盾する課題を単に足して2で割るのではなく、その矛盾する課題を解決する方策のことであると三村氏は語った。講義の間に三村氏は何度も「危機」という言葉を繰り返した。しかしそこに悲壮感はない。むしろ希望が見え隠れしたような気がする。それは言葉そのものではなく、三村氏のもつリーダーシップから発せられるパワーかもしれない。当事者が危機感をもつことで問題意識が明確になり、組織全体がその課題解決への活気へと繋がる、これが三村氏のリーダーシップなのであろう。三村氏はさらに経営についてこう語った。

経営とは課題を認識し、共有し、実行することである。そして自分の言葉で語りかける。何回も、何回も、何回も、そして納得させることである。

三村氏のプレゼンテーションがまさしくそれであった。そしてリーダーシップについてはこう語った。「人の話しをとにかく聴く事。80%は聴く。残りの20%は自分の意思を伝える。」

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プラザ合意以降はコストダウン神話の様なものがあったという。コストカットを目的に高炉を止めた粗鋼メーカーはこれまでどこにもなかったが新日鉄は廣畑の高炉を止めた。このようなコストダウンを続ける会社に対して「いつまでこれを続ければよいのか?」という社員の質問に三村氏は答えられなかったのだという。このことを伝える時、三村氏は一瞬声を詰まらせたようにも見えた。一瞬涙ぐんだようにも。三村氏の経営者としての一面と、人としての一面が見えた瞬間でもあった。この時に三村氏のリーダーシップが醸成されたように私は感じた。

curriculum-management-121117-05講義時の三村氏と質疑応答の時の三村氏は全く別人のようであった。講義の時の三村氏は企業人であり、大学を訪れた外部講師の一面をみせていた。最初は原稿に時折目を通しながら、慎重に言葉を選んでいたが、休憩を挟んだ後の質疑応答の三村氏は本音で語るリーダーに変わっていた。
学生の質問に対し、少し考えた後に自分の言葉で話す、これは彼自身が語った「自分の言葉で語りかける」と言っていた言葉そのものであった。そして多くの質問が三村氏に投げつけられた。彼は必ずこう言った。『難しい事ですね。自分で考えて、答えを出すしかない』と。三村氏の言う事は一貫していた。そこに矛盾はなかった。
講義を終えた後の三村氏はさらに無邪気な子供の様な笑顔で私たちに手を振ってくれた。日本を代表する経営者とは思えないこの気さくな雰囲気と、最初に見せた政治家の様なカリスマ性を持った貫禄。日本を代表する日本人のリーダーを三村明夫氏に見た。(A.T)

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