戦略経営の実践(経営者リレー講義)第3回
2020年10月10日(土)
「感性 X 技術」による価値創造~ヤマハの企業経営~
ヤマハは、「パワートレイン」「電子制御」「車体・艇体」「生産」4つのコア技術を発展させながら、二輪車のみならず、船外機、船艇、電動アシスト自転車、産業用無人ヘリコプターなど革新的な製品を次々と世に送り出してきた。その裏側には、「技術×感性」による価値創造があった。柳会長曰く、感性とは「感覚、感情から創る個性」である。良いものを作る技術だけでは成功しない。目指すところ、すなわち「良いものが何か」を決めるのは感性であり、感性に技術を掛け合わせたものが価値となる。事実、商品開発では一切の妥協を許さず、どれだけ時間をかけてでも納得できる良いものを作り上げる。このような、「磨き抜かれた感性」と「確かな技術」こそが、ヤマハ最大の強みである。
5つの共通価値の中で、ヤマハが最も大事にするのは「発」である。そこには、チャレンジ精神の意が込められている。企業文化の根幹には、飽くなき探求心と情熱を持ち、「もっとおもしろい乗り物はないか」というテーマに挑戦し続ける精神がある。それは、「スピード、挑戦、やり抜く」という行動指針からも垣間見える。柳会長は、「ヤマハらしさ」を「自由闊達」という言葉で表現された。ここでいう自由闊達とは、どういう意味であろうか。それは、仕事を心の底から楽しみ、のびのびと活動することであろう。誤解を恐れずに言えば、「趣味」と「仕事」の間に境界線は存在しない。「元々隠れてやる文化」があったという柳会長の言葉のとおり、終業後にバイクをいじって走らせるエンジニアも多いと聞く。古代ギリシアのアリストテレスは、「活動は価値があればあるほど楽しいものである」と説いた。新たな価値創造への挑戦が、心の底から仕事を楽しむという快楽につながるのである。こうした「挑戦」と「快楽」の好循環が、ヤマハの優れた企業文化といえよう。
コロナ禍で世界の価値観が大きな転換期を迎える今、ヤマハの事業環境はどう変わるのだろうか。いつの時代も乗り物の最大の価値は、移動手段としての「便利さ」にあった。今後も、自動運転など、移動手段としての「便利さ」に対する価値は追求されるだろう。 しかし、デジタル社会やコロナ禍の新生活様式は、移動そのものの価値を相対的に低下させた。即ち、「便利さ」は乗り物以外で代替できる。次世代の乗り物に求められるのは、「便利さ」ではなく「自己実現の追求」ではないだろうか。つまり、乗るという行為とそれによる自己実現に価値を見出すのである。