戦略経営の実践(経営者リレー講義)第2回

2020年10月3日(土)

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特殊講義:戦略経営の実践
濱田 初美 教授
特別講師
日本電気株式会社 代表取締役会長
遠藤 信博

価値創造 本質に近づく努力!

立命館大学 大学院 経営管理研究科(RBS)は、日本電気㈱代表取締役会長の遠藤信博氏を招聘し「戦略経営の実践」の特別講義を行った。院生レポートを中心に当日の講義内容を紹介する。

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はじめに
日本電気株式会社(以下、当社という)について、まず私が思い浮かべることは、幼少期に、父が「PC-98」を買い求め自慢げに話をしていたことや、学生時代に当時、人気の折り畳み携帯「Nシリーズ」を愛用していたことである。しかしながら、それらの製品を生み出してきた当社の事業は、競争力を失ってしまい今は手掛けられていない。
当社は、創業100年を超える長寿企業だが、決して平坦な道程を歩んできたのではない。株価は足元で上向いているものの2000年7月につけた高値の1/6程度の水準にあり、過去の成功体験から新たな機軸を設けることに、20年もの間もがき苦しんできた印象を受ける。この要因の1つとして逆説的になるが、当社は電電ファミリーとして安定的な取引先があったからこそ、改革の機運が高まりづらい文化があったのではないかと推測する。
いずれにしても、「イノベーションのジレンマ」や「両利きの経営」は理論として理解することは容易であるが、当社の歴史を見れば実際の企業経営において、体力があるうちに新たな柱を生み出すことは、非常に難しいということが分かる。

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人材の確保と事業の改革について
当社は、優秀な研究者を確保するために、昨年から新卒でも年収1,000万円以上も可能とする制度を導入。富士通㈱も同様の取り組みを開始しており、人材獲得競争は厳しいと言える。加えて、HEROZ㈱のように当社出身の人材が企業し、上場するケースが出てきており、優秀な人材の繋ぎ止めも課題ではないか。
一般的に人が職場を選択する際、年収はあくまでも判断材料の1つであり、他には仕事のやりがい、面白さ、更には「Purpose」や「Principles」への共感等があると考える。これら人材確保に向けた課題は、当社の事業構造を変革し、新たなやりがいを創出することで、解決できるのではないか。
当社は2018-2020年の中期経営計画において、国内は売上ベースで横ばいを見込んでいる。国内市場の成長を見通すことが難しいなかで、当社が認識している事業リスクは、競争の激化として「主にアジア諸国の競合会社は、販売価格面で競争力を有している」、「NECグループは多角的に事業を展開しているため、競合会社より多くのリソースを保有していても、それぞれの特定事業分野では、競合会社ほど、資金を投入できない場合もある」、さらには「商品の開発スピードが速くなっている」等としている。
このような状況に対応するため、将来的には社会公共事業等の国内事業を富士通㈱との提携により合理化する一方で、成長が見込まれるグローバル事業に経営資源を集中させてはどうか。

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新たな技術を生み出す企業の責任について
技術を生み出すのは人間であり、それを運用するのもまた人間である。当社が生み出す新たな技術は、ともすればジョージ・オーウェルが描いた「1984」のような世界を創り出す材料にもなり得てしまう。
遠藤会長は、当社の技術が使い方次第で、薬にも毒にもなることを強く認識されているからこそ、社内に倫理観の重要性を説き、社員の隅々まで「当社の技術によって人間社会の向上に役立てたい」とする意識(Strong Will)を植え付け、企業文化として根付かせようとしているのではないか。そして、強い責任感と当事者意識を持つからこそ、「企業こそが、人間社会の長期Visonを描くべき存在!」との言葉が出てくるのだと考える。
遠藤会長が高い視座から世界を捉えているからこそ、紡ぎ出される言葉に感銘を受けるとともに、経営者の在るべき姿を学ぶことができた。(F・T)

 

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