戦略経営の実践(経営者リレー講義)第5回
2020年10月24日(土)
世界のCSV先進企業を目指して
立命館大学 大学院 経営管理研究科(RBS)はキリンホールディングス㈱代表取締役社長の磯崎功典氏を招聘し「戦略経営の実践」の特別講義を行った。院生レポートを中心に当日の講義内容を紹介する。
キリンビールが、20年1~6月のビール類シェアでアサヒビールを抜き去り、11年ぶりにトップに立った。コロナ禍で居酒屋の需要などが落ち込む中、業務用ビールへの依存度の低いことがキリンに有利に働き、また新しい主戦場である家庭用新ジャンルへの取組みもキリンに軍配が上がった。
そして勢いに乗るキリンがいま取り組んでいるのが、本日の講義でご紹介のあったCSVを根幹に据えた新しい経営戦略だ。企業の経済的価値と社会的価値の両立を目指すことで創出される事業機会を獲得し、企業価値の向上を目指している。社会的要請の高まるヘルスサイエンス分野では、既に具体的な事業成果が出始めている。免疫分野で手がけるプラズマ乳酸菌が「機能性表示が可能な食品」として消費者庁に受理され、11月上旬から「健康な人の免疫機能が維持される」との効果を表示した飲料やサプリメントなどを発売する予定だ。
こう書けば如何にも順風満帆な経営環境だが、実際には、多くの逆風を乗り越えながら前へ進もうとしている。人口減と多様化によりビールの需要は減少を続けているし、コロナ禍で勝ち組となった買い手であるSEJやイオンGの交渉力が強まりダブルパンチになっており、長期では飲料以外の新しい柱がどうしても必要という切迫した背景がある。加えて新事業の柱である医療・健康が機関投資家から売却要求を受け、それを突っ撥ねての推進である。
そのキリンHDの舵取りをする磯崎社長は、パワフルな人間力に溢れている。その源泉は、若くして冷凍食品、オープンベーカリー、調味料などの上手行かなかった数々の挑戦で新規事業のオーソリティとなったこと、コーネル大学留学、必ずしも順調ではなかったキャリアパスなど、多くの困難から逃げずに立ち向かった経験の累積である。
そして、もう一つ注目すべきキリンの企業文化に「長期的研究開発の重視」がある。これが30年に及ぶ発酵バイオ技術の研究継続を可能にし、現在のヘルスサイエンス事業に繋がっている。また、キリンビバレッジのターンアラウンドにおいては、コカ・コーラと事業売却交渉を行うことで、社内の危機感を高めながら改革を行い、高収益事業体へと変貌させるという変革のスペシャリストとしての側面も持つ。
その磯崎社長は、こうした新しい文化と伝統ある文化を織り交ぜながら、CSVをキリンの新しい共通の価値観として中心に据えながら、「ヘルスケア&ビバレッジの深化」を基本戦略としたコングロマリットプレミアムも高い、新たなキリンへとトランスフォーメーションを進めている。「今、もう一つの麒麟がくる!」(M・H)