戦略経営の実践(経営者リレー講義)第7回

2010年11月13日(土)

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国際経営特殊講義:戦略経営の実践
濱田 初美 教授
講演者
curriculum-management-101113-02月桂冠(株) 代表取締役社長(14代目)
大倉 治彦

老舗企業の理念

普段からお酒を嗜むわけではないが、「月桂冠」については京都の老舗でもあり、地理的感覚と小さい頃からのCMの影響から、非常に身近で馴染みのある企業であり、親近感を覚えながら楽しく講話を拝聴させていただいた。「親近感」については、この度の大倉社長のざっくばらんな話術と内容から「月桂冠」の社風そのものから醸し出されているようにも思える。

curriculum-management-101113-03老舗や相続経営という企業について、無知であったと痛感したが、感覚的なものとして保守的イメージを抱いていたが、「月桂冠」の新技術開発の取り組み、また海外事業展開などの挑戦や展開の経緯を知り、そしてまた社長の言葉には「運」との表現であったが、その「運」の歴史を創造してきた経営者の手腕や人柄が、発展の長い軌跡を辿ってきたのだと思うと感動を覚えた。

社長講話より「11代目 大倉恒吉(曽祖父)《中興の祖》、12代目 大倉治一(祖父)が優秀であった」とのことだったが、11代目の明治以降の日本の時代背景の中で、季節労働者の減少や後継者不足の当時の労働市場と環境条件が合致し、有利な背景条件において新開発に繋がったといえる部分もあったかもしれない。結果的には他の大手メーカーに先駆けて12代目が四季醸造を実現させ、それはやはり直接的なリーダー、11代目と12代目の先見の明と決断力に負うところが大きかったといえる。
この度の14代目 大倉社長自身の言葉としてではあるが、「13代目 大倉敬一(父)と違うやり方」は相続の考え方として当時も少なからず類似していると想像すると、現場の技術者たちの努力と知恵を結集させて、13代目とは違う手法で技術革新の時代を開拓されたのだろう。こうして歴代の月桂冠における技術高度化の弛まぬ努力が、画期的な新醸造法の開発、そして海外事業展開へと時代を駆け抜けたと思える。

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「日本酒」という技術的にも文化的にもきわめて繊細な商品は、海外進出を実行する苦難についてそう簡単に語れるものではないと推察できる。しかし「Gekkeikan」の日本酒ブームを巻き起こし、一企業の拡大発展につながっただけでなく、日本酒業界全体の大きな波及効果をもたらすことにもなった。それは一重に月桂冠の歴代からの理念「品質第一」をモットーとし、引継がれた相続経営の潜在的な大きな力が伺える。それは大倉社長の講話を拝聴しながら、懐の深さや温かさが伝承の含蓄する所大なりと感じるのである。

安定感と安心感を確保しつつ、大胆な挑戦・革新を通して新陳代謝をおこない、持続と変化のバランスの中で持続的発展を遂げてきたことは、老舗が継続する所以を考える上で非常に重要な意味を持つ。継承のノウハウや時代変化の体制といった強みは古いが故の強みであり、新しい取り組みへの挑戦を大いに下支えし、結果として企業の持続的発展につながるという図式が考えられる。老舗の持つ伝統と大胆な新しさへの挑戦は、社会的にまた世界的に認められた名誉ある価値である。(Y.S)

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