戦略経営の実践(リレー講義)記録 一覧

戦略経営の実践(経営者リレー講義)第7回

2020年11月7日(土)

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特殊講義:戦略経営の実践
濱田 初美 教授
特別講師
東京海上ホールディングス株式会社 取締役会長
永野 毅

To Be a Good Company

立命館大学 大学院 経営管理研究科(RBS)は、東京海上ホールディングス㈱取締役会長の永野毅氏を招聘し「戦略経営の実践」の特別講義を行った。院生レポートを中心に当日の講義内容を紹介する。

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永野会長、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。ご講義を拝聴し、もう一度、資料の表紙を見たときに「To Be a Good Company」「Purpose Driven経営」の意味と重要性、そしてこれらの言葉に込められた想いを改めて理解できました。「マジきら会」とてもいい会だと羨ましく思います。きっと直接対話をした社員の皆さんも、言葉の意味やそこに込められた想いを会長の熱量と一緒に五感で感じることで強い刺激を受けて、自らの行動に落とし込むことができるのではないかと想像します。いくらきれいにまとまった資料を渡されて読んだとしても、頭で理解はできても腹に落として行動にまで繋げることは人間だれしも簡単ではありません。翻って、自分自身ミドルマネジャーとして部下と接する際にも同じことが当てはまると顧みることになりました。トップマネジメントや上司から言われたことを伝聞で伝えるだけではほとんど伝わらない、自分がまず腑に落として自分の言葉で語ってこそ、はじめて伝わるものであると。そして、このことは私を含めてほとんどの人が理解しているのですが、行動をし続けることの難しさを痛切に感じます。期初などの節目には必ずと言っていいほど意識が高まるのですが、その後はどうしても日常的な業務をこなす中で後回しにしがちなところがあります。お話を聞かせていただき、社長ご就任時に並々ならぬ覚悟を持ち自らを律して徹底して繰り返し行動し続けた結果、ナデラ氏の言葉の通り全ての社員がSense of mission and purposeを持ち、それがやがて企業文化へと昇華されるのだと感じました。目に見えない商品を扱う貴社だからこそ、より一層、人と文化を大切に考えておられると思いますが、これは「ものづくり」をしている企業にもそのまま当てはまることですし、技術や製品の良し悪しよりも、むしろ企業の趨勢に良くも悪しくも大きな影響を与え得るものだと思いました。

 

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事業のグローバル化、海外企業とのアライアンス、個の尊重、個の時代と多様性を受入れマネジメントすることが多くの企業にとって当たり前になってきています。だからこそ、横串として皆にとって共通のPurposeは、規律を保つ意味で非常に重要だということに、これまで比較的多様性の乏しかった日本企業は気づきはじめているのだと感じます。貴社のコアアイデンティで謳われている「Look Beyond Profit」「Profit is like air」といった言葉は、とてもキャッチーでありながら本質的なことを問いかけています。自分たち企業は何のために存在するのか、社会の課題にどう取り組み貢献するのか、そこで自分はどういった価値を提供するのか、究極的には企業という器を通じて自分自身どう生きるのかと考えることだと言っても過言ではないと思います。そして本質的であると同時に抽象度の高

 

いPurposeを、具体的な現実としてのことがらとつなぎ合わせる柔軟な思考力を養っていくことも同時に重要なことだと気づかされます。
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ご講義を聴き、多くの刺激をいただきました。全てを明日から実行することは難しいですが、一つまた一つと考えて腑に落とし行動する、というサイクルを回していきたいと思います。本当に、ありがとうございました。(M・H)

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戦略経営の実践(経営者リレー講義)第6回

2020年10月31日(土)

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特殊講義:戦略経営の実践
濱田 初美 教授
特別講師
株式会社TBSホールディングス 取締役会長
武田 信二

民間放送局の未来

立命館大学 大学院 経営管理研究科(RBS)は、㈱TBSホールディングス代表取締役会長の武田信二氏を招聘し「戦略経営の実践」の特別講義を行った。院生レポートを中心に当日の講義内容を紹介する。

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「若者のテレビ離れ」と言われて久しい昨今、最大の収入源であるテレビ広告が2006年にピークを迎える中、当時は多様化するコンテンツとの接点をいかに作るかが貴社の大きな課題であったと認識しています。この課題に対し、放送と通信の融合を加速させ、先端技術等を活用した新たなコンテンツの市場拡大にも取り組まれるなど、将来を見据え挑戦し成長し続ける御姿にはいたく感銘するとともに、社会に欠かせない機能であることを改めて認識しました。
当会では、貴社の系列局「SBS静岡放送」との取引があり、以前、新たな金融商品をPRすべく、媒体や手法等のご提案を依頼しました。テレビのみの提案を想定しておりましたが、当会を調査・分析のうえ、関連あるテレビ番組を中心にしつつ、グループのラジオ・新聞に加え、広告代理店と連携したイベントやWEB広告の出稿等、限られた予算でのPR効果の最大化を目指した素晴らしい提案を頂戴したことは、現在でも記憶に残っています。

会長は、貴社には働きたい職種を明確にした志の高い社員が多く、やや縦割りの文化であるとおっしゃられました。この社風が伝統として根付き、その道のプロであるリーダーと部下との強固な信頼関係を築くとともに、近年では企業内大学を開校させるなど、様々な職種との融合によりブランド価値を高める人材育成に取り組まれ、組織の活性化に繋げていることが、貴社の大きな成長に繋がっている所以だと推察しました。

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また、貴社では常に視聴者目線での妥協を許さない質の高い番組制作にこだわられており、正に高い組織力・チーム力を背景に視聴者ニーズを捉えて行動されている御姿は、顧客本位の営業活動を方針とする当会においても同様に目指す姿だと改めて強く感じたところです。
貴社の財務内容に目を移すと、「政策保有株式の縮減や積極的な株主還元」を実施される中、今後も中長期的なバランスシートスリム化や、資産売却を原資とした株主還元への積極姿勢を継続していくことが伺えます。
一方、僭越ながら、本業の収益力強化に繋がる内容ではないことに加え、他社との競合やグローバル戦略では大きな存在感を発揮できていないことは課題だと認識しています。収益力強化に向けては、放送と動画配信の連携強化・進化や最先端テクノロジーの事業化推進など新たな取り組みを拡充・加速させ、将来的に国内市場が成熟する中、グローバル市場には大きな成長余地が残されていると思われます。グループ全体におけるシナジー効果の最大化を図り、貴社が掲げられるブランドプロミス「最高の‟時”で、明日の世界をつくる。」に向けて、大きく飛躍されることを心よりお祈り申し上げます。

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貴社では、食や農をテーマとしたテレビ番組やドラマ等を通じ、農業の魅力を幅広く発信されており、私のJAグループとも連携して日本の農業を盛り上げていければ幸甚です。私も外部機関との連携や知見を活用しつつ、常に将来を見据えた事業変革を実践し、当会の持続可能な経営基盤の確立・強化に向けて業務に邁進していく所存です。この度は貴重なご講義を拝聴させていただき、誠にありがとうございました。(N・N)

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戦略経営の実践(経営者リレー講義)第5回

2020年10月24日(土)

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特殊講義:戦略経営の実践
濱田 初美 教授
特別講師
キリンホールディングス株式会社 代表取締役社長
磯崎 功典

世界のCSV先進企業を目指して

立命館大学 大学院 経営管理研究科(RBS)はキリンホールディングス㈱代表取締役社長の磯崎功典氏を招聘し「戦略経営の実践」の特別講義を行った。院生レポートを中心に当日の講義内容を紹介する。

キリンビールが、20年1~6img02月のビール類シェアでアサヒビールを抜き去り、11年ぶりにトップに立った。コロナ禍で居酒屋の需要などが落ち込む中、業務用ビールへの依存度の低いことがキリンに有利に働き、また新しい主戦場である家庭用新ジャンルへの取組みもキリンに軍配が上がった。
そして勢いに乗るキリンがいま取り組んでいるのが、本日の講義でご紹介のあったCSVを根幹に据えた新しい経営戦略だ。企業の経済的価値と社会的価値の両立を目指すことで創出される事業機会を獲得し、企業価値の向上を目指している。社会的要請の高まるヘルスサイエンス分野では、既に具体的な事業成果が出始めている。免疫分野で手がけるプラズマ乳酸菌が「機能性表示が可能な食品」として消費者庁に受理され、11月上旬から「健康な人の免疫機能が維持される」との効果を表示した飲料やサプリメントなどを発売する予定だ。

こう書けば如何にも順風満帆な経営環境だが、実際には、多くの逆風を乗り越えながら前へ進もうとしている。人口減と多様化によりビールの需要は減少を続けているし、コロナ禍で勝ち組となった買い手であるSEJやイオンGの交渉力が強まりダブルパンチになっており、長期では飲料以外の新しい柱がどうしても必要という切迫した背景がある。加えて新事業の柱である医療・健康が機関投資家から売却要求を受け、それを突っ撥ねての推進である。
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そのキリンHDの舵取りをする磯崎社長は、パワフルな人間力に溢れている。その源泉は、若くして冷凍食品、オープンベーカリー、調味料などの上手行かなかった数々の挑戦で新規事業のオーソリティとなったこと、コーネル大学留学、必ずしも順調ではなかったキャリアパスなど、多くの困難から逃げずに立ち向かった経験の累積である。
そして、もう一つ注目すべきキリンの企業文化に「長期的研究開発の重視」がある。これが30年に及ぶ発酵バイオ技術の研究継続を可能にし、現在のヘルスサイエンス事業に繋がっている。また、キリンビバレッジのターンアラウンドにおいては、コカ・コーラと事業売却交渉を行うことで、社内の危機感を高めながら改革を行い、高収益事業体へと変貌させるという変革のスペシャリストとしての側面も持つ。

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その磯崎社長は、こうした新しい文化と伝統ある文化を織り交ぜながら、CSVをキリンの新しい共通の価値観として中心に据えながら、「ヘルスケア&ビバレッジの深化」を基本戦略としたコングロマリットプレミアムも高い、新たなキリンへとトランスフォーメーションを進めている。「今、もう一つの麒麟がくる!」(M・H)

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戦略経営の実践(経営者リレー講義)第4回

2020年10月17日(土)

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特殊講義:戦略経営の実践
濱田 初美 教授
特別講師
KDDI株式会社 代表取締役会長
田中 孝司

激変する市場環境におけるKDDIの競争戦略

立命館大学 大学院 経営管理研究科(RBS)はKDDI㈱代表取締役会長の田中孝司氏を招聘し「戦略経営の実践」の特別講義を行った。院生レポートを中心に当日の講義内容を紹介する。

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「知識」とは
個人の能力とは、(経験+知識)×論理的思考で表される。経営トップに必要なことは、「未来予測」であり、経験より確かな「知識」こそが、未来予測をガイドし、判断に悩んだときに自信を与えてくれるとのお言葉が非常に印象的でした。スタンフォード大学留学時代に寝る間も惜しんで勉学に励まれたことや、社長就任当時や改革時など、たとえ未経験の分野であっても、忙しい合間の時間で自ら知識を習得し、実行可能な戦略にまで落とし込まれている点など非常に感銘を受けました。「知識」をアップデートし続け、結果を残してこられたからこそ、「知識」への絶対的な自信に繋がっているのだと感じました。
KDDIの企業文化と改革
KDDIほどの大企業には珍しく、中小企業のような強烈なトップダウンであるが、部下は上司に迎合するのではなく、常に利益成長を是とする文化がある、との会長のお言葉が印象的でした。良くも悪くも中小企業img03体質の文化は、トップの指示であれば社員も従うが、反面、経営トップ次第で企業のポテンシャルが決まってしまう脆さがあるように思えます。さらに最終的には実績で評価されるため非常に合理的な文化ともとれ、トップにかかるプレッシャーがどれほどのものか正直のところ全く想像がつきません。
社長に就任された当時は、当時の最新規格である4Gへの対応の遅れから、年々業績が悪化しており、社員たちの方向性はバラバラな状況でしたが、トップ自らが意識改革・変革の必要性を発信し続け、陣頭指揮をとり、戦略(意識改革、営業モメンタムの回復、3M戦略)を実行し、結果を出されてきたことは驚嘆するばかりです。改革時、部長クラスとのベクトル合わせのため毎月会議を実施され、また会長自らが膨大な量の資料を準備しプレゼンされ、また「営業モメンタムの回復」では、業界では失敗することが当たり前と思われていたバンドル販売にチャレンジされていますが、これも絶え間ない知識の習得から仮設検証を繰り返し、最終的にチャレンジされた結果なのだと想像します。会長自らが陣頭指揮されてきたことで、周囲に改革の本気度が伝わり、また内容の説得力にも繋がっていたのではないかと思います。

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自らの振り返り
会長のお言葉の中で、「脳は同じことを繰り返していると快楽を感じる。1カ月前から変化がなければ、現状維持病」とのお言葉がとても印象的で、私自身の行動や意識も変える必要があると感じました。「大きな波を捉える習慣」として、将来予測のために時間をレイアウトすべきで、自社業界および隣接業界の未来予測レポートの重要性・有用性についての示唆をいただきました。私たちは過去のデータや傾向、経験から未来を予測しがちですが、今後訪れるデータ社会やVUCA時代の未来は過去の延長線上には無いと考えます。自社は保守的な文化が強い企業で、私は経営層からは遠い現場の一従業員ではありますが、この度の田中会長の講演を通じて、若手や中堅社員である自分たちこそ自社の将来を真剣に考えるべきであり、視座を高くすべきと意を強く致しました。(O・S)

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戦略経営の実践(経営者リレー講義)第3回

2020年10月10日(土)

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特殊講義:戦略経営の実践
濱田 初美 教授
特別講師
ヤマハ発動機株式会社 代表取締役会長
柳 弘之

「感性 X 技術」による価値創造~ヤマハの企業経営~

立命館大学 大学院 経営管理研究科(RBS)は、ヤマハ発動機㈱代表取締役会長の柳弘之氏を招聘し「戦略経営の実践」の特別講義を行った。院生レポートを中心に当日の講義内容を紹介する。
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ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)の強みは何か。その答えは、「感性×技術」による価値創造、そして、「ヤマハらしさ」を表す共通価値「発、悦、信、魅、結」にある。
ヤマハは、「パワートレイン」「電子制御」「車体・艇体」「生産」4つのコア技術を発展させながら、二輪車のみならず、船外機、船艇、電動アシスト自転車、産業用無人ヘリコプターなど革新的な製品を次々と世に送り出してきた。その裏側には、「技術×感性」による価値創造があった。柳会長曰く、感性とは「感覚、感情から創る個性」である。良いものを作る技術だけでは成功しない。目指すところ、すなわち「良いものが何か」を決めるのは感性であり、感性に技術を掛け合わせたものが価値となる。事実、商品開発では一切の妥協を許さず、どれだけ時間をかけてでも納得できる良いものを作り上げる。このような、「磨き抜かれた感性」と「確かな技術」こそが、ヤマハ最大の強みである。

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5つの共通価値の中で、ヤマハが最も大事にするのは「発」である。そこには、チャレンジ精神の意が込められている。企業文化の根幹には、飽くなき探求心と情熱を持ち、「もっとおもしろい乗り物はないか」というテーマに挑戦し続ける精神がある。それは、「スピード、挑戦、やり抜く」という行動指針からも垣間見える。柳会長は、「ヤマハらしさ」を「自由闊達」という言葉で表現された。ここでいう自由闊達とは、どういう意味であろうか。それは、仕事を心の底から楽しみ、のびのびと活動することであろう。誤解を恐れずに言えば、「趣味」と「仕事」の間に境界線は存在しない。「元々隠れてやる文化」があったという柳会長の言葉のとおり、終業後にバイクをいじって走らせるエンジニアも多いと聞く。古代ギリシアのアリストテレスは、「活動は価値があればあるほど楽しいものである」と説いた。新たな価値創造への挑戦が、心の底から仕事を楽しむという快楽につながるのである。こうした「挑戦」と「快楽」の好循環が、ヤマハの優れた企業文化といえよう。
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コロナ禍で世界の価値観が大きな転換期を迎える今、ヤマハの事業環境はどう変わるのだろうか。いつの時代も乗り物の最大の価値は、移動手段としての「便利さ」にあった。今後も、自動運転など、移動手段としての「便利さ」に対する価値は追求されるだろう。 しかし、デジタル社会やコロナ禍の新生活様式は、移動そのものの価値を相対的に低下させた。即ち、「便利さ」は乗り物以外で代替できる。次世代の乗り物に求められるのは、「便利さ」ではなく「自己実現の追求」ではないだろうか。つまり、乗るという行為とそれによる自己実現に価値を見出すのである。

ブランドスローガン「Revs Your Heart」は、「心躍る豊かな瞬間・最高の感動体験を届ける」ことを約束している。ヤマハの原点、こだわりはまさにそこにある。視界良好、世界の価値観がようやくヤマハに追いついた。(M・T)img05


戦略経営の実践(経営者リレー講義)第2回

2020年10月3日(土)

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特殊講義:戦略経営の実践
濱田 初美 教授
特別講師
日本電気株式会社 代表取締役会長
遠藤 信博

価値創造 本質に近づく努力!

立命館大学 大学院 経営管理研究科(RBS)は、日本電気㈱代表取締役会長の遠藤信博氏を招聘し「戦略経営の実践」の特別講義を行った。院生レポートを中心に当日の講義内容を紹介する。

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はじめに
日本電気株式会社(以下、当社という)について、まず私が思い浮かべることは、幼少期に、父が「PC-98」を買い求め自慢げに話をしていたことや、学生時代に当時、人気の折り畳み携帯「Nシリーズ」を愛用していたことである。しかしながら、それらの製品を生み出してきた当社の事業は、競争力を失ってしまい今は手掛けられていない。
当社は、創業100年を超える長寿企業だが、決して平坦な道程を歩んできたのではない。株価は足元で上向いているものの2000年7月につけた高値の1/6程度の水準にあり、過去の成功体験から新たな機軸を設けることに、20年もの間もがき苦しんできた印象を受ける。この要因の1つとして逆説的になるが、当社は電電ファミリーとして安定的な取引先があったからこそ、改革の機運が高まりづらい文化があったのではないかと推測する。
いずれにしても、「イノベーションのジレンマ」や「両利きの経営」は理論として理解することは容易であるが、当社の歴史を見れば実際の企業経営において、体力があるうちに新たな柱を生み出すことは、非常に難しいということが分かる。

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人材の確保と事業の改革について
当社は、優秀な研究者を確保するために、昨年から新卒でも年収1,000万円以上も可能とする制度を導入。富士通㈱も同様の取り組みを開始しており、人材獲得競争は厳しいと言える。加えて、HEROZ㈱のように当社出身の人材が企業し、上場するケースが出てきており、優秀な人材の繋ぎ止めも課題ではないか。
一般的に人が職場を選択する際、年収はあくまでも判断材料の1つであり、他には仕事のやりがい、面白さ、更には「Purpose」や「Principles」への共感等があると考える。これら人材確保に向けた課題は、当社の事業構造を変革し、新たなやりがいを創出することで、解決できるのではないか。
当社は2018-2020年の中期経営計画において、国内は売上ベースで横ばいを見込んでいる。国内市場の成長を見通すことが難しいなかで、当社が認識している事業リスクは、競争の激化として「主にアジア諸国の競合会社は、販売価格面で競争力を有している」、「NECグループは多角的に事業を展開しているため、競合会社より多くのリソースを保有していても、それぞれの特定事業分野では、競合会社ほど、資金を投入できない場合もある」、さらには「商品の開発スピードが速くなっている」等としている。
このような状況に対応するため、将来的には社会公共事業等の国内事業を富士通㈱との提携により合理化する一方で、成長が見込まれるグローバル事業に経営資源を集中させてはどうか。

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新たな技術を生み出す企業の責任について
技術を生み出すのは人間であり、それを運用するのもまた人間である。当社が生み出す新たな技術は、ともすればジョージ・オーウェルが描いた「1984」のような世界を創り出す材料にもなり得てしまう。
遠藤会長は、当社の技術が使い方次第で、薬にも毒にもなることを強く認識されているからこそ、社内に倫理観の重要性を説き、社員の隅々まで「当社の技術によって人間社会の向上に役立てたい」とする意識(Strong Will)を植え付け、企業文化として根付かせようとしているのではないか。そして、強い責任感と当事者意識を持つからこそ、「企業こそが、人間社会の長期Visonを描くべき存在!」との言葉が出てくるのだと考える。
遠藤会長が高い視座から世界を捉えているからこそ、紡ぎ出される言葉に感銘を受けるとともに、経営者の在るべき姿を学ぶことができた。(F・T)

 

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戦略経営の実践(経営者リレー講義)第1回

2020年9月26日(土)

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特殊講義:戦略経営の実践
濱田 初美 教授
特別講師
株式会社セブン&アイ・ホールディングス代表取締役社長
井阪 隆一

「セブン&アイ・ホールディングスの経営戦略」

立命館大学 大学院 経営管理研究科(RBS)は、㈱セブン&アイ・ホールディングス代表取締役社長の井阪隆一氏を招聘し「戦略経営の実践」の特別講義を行った。院生レポートを中心に当日の講義内容を紹介する。

 

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生活産業であるコンビニ・スーパーは、常に社会変化の影響を受けています。人々が持つ価値観の変化に合わせてスピード感をもって対応するだけでなく、各スーパー・コンビニがその街の生活拠点となっており、本社だけでなく加盟店と共存共栄していくことが重要であると強く感じる講義でした。特に現在はCOVID-19 により人々の生活スタイルや価値観は大きく変化しており、将来への見通しは不明瞭な中で、今後のビジョンを考えていくには難しい状況に置かれていると感じます。
しかしながら、どの時代でも新たな課題に対する解決策を実現していく姿こそがセブン&アイ・ホールディングスの成長につながっているのだと考えると、今こそチャンスではないでしょうか。井阪社長が実践されてきたお話を伺いながら、きっと今後もその姿勢を示し、実行することで私たちの生活の身近な便利さを提供し続けてくれると思いました。私が社員であれば、むしろこの悩ましい時代こそ新たなことに挑戦できる会社であることで、ワクワクしているのではないかと思います。
DXへの挑戦を行い省人化しつつも、Social Platformで居続けるために、他とは違う優しさを持った店作りを行ってほしいと思います。日本の高齢化はさらに進み、一人暮らし世帯は増え、デジタルに遅れを感じてもそれを助け合える家族がいない人々も必ず生まれます。郊外の買い物難民を救い、百貨店や専門店など本物の質の良い商品をもっている企業だからこそ、専門店とコンビニエンスストア、スーパーの整理を行い、便利さと質の良さを兼ね備えた新しい店づくりを期待します。百貨店、スーパー、コンビニという業態の枠にとらわれることなくグループを越えた店づくりを行ってほしいです。

 

今再びコンビニは同質化しつつありますが、専門性の高さは強みだと考えます。スーパーは食品さえ買えればいいのではなく、同等の価格で日々のちょっとした変化を提供しています。外出自粛期間の唯一の外出はスーパーへの買い物でした。毎日同じような食事であったのをスーパーでの展示により、家の中で出来るイベントとして新しい料理に挑戦するなど機会に恵まれました。そして、家族以外の会話もスーパーの店員さんでした。人と話す重要性もまた実感する日々であり、買い物の楽しさを思い出しました。地域の専門的な知識をもつ人との結びつきも提供価値であると感じます。省人化しつつも、必要な人材を残し人と人の温かさを魅力にブランドにあった店づくりを展開していただきたいです。

 

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経営成績の悪い店を整理すべきではないか、という質疑を受けた際に、井阪社長がその土地で働いている人々の生活やお店のファンがいる中で簡単に閉めるわけにはいかないというのは、セブン&アイ・ホールディングスが人々のライフラインとして世の中に存在する意義を持って運営されているという心のうちや、人の温かさを感じる一面だったと思いました。変化の重要性をお話しいただくとともに、井阪社長からはモノづくりへの熱意も感じました。お客様のニーズを常に考え、変化を恐れずにより良いものを提供することで存在するということは、どの企業にも忘れてはならない大切な信条であり、自らが何か重要な判断を行う場合に必ず思い出したいと思いました。
お忙しい中でありながら、貴重な実例と経営者としての心構えについてお話頂けたこと、大変感謝いたします。
(Y・M)

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