2020年秋、第八回「戦略経営の実践」経営者リレー講義を開講しました。御登壇くださった方々に心から御礼申し上げます。

 

セブン&アイ-HD   井阪隆一 社長

日本電気       遠藤信博 会長

ヤマハ発動機     柳 弘之 会長

KDDI             田中孝司 会長

キリン-HD      磯崎功典  社長

TBS-HD       武田信二 会長

東京海上-HD     永野 毅 会長

TOTO       張本邦雄 会長

 

2006年秋より隔年開講にて64名様をお迎えし、本学院生に示唆と激励を頂きました。誠に有難うございました。資料ご参照→戦略経営の実践 ご出講各位(2006-2020)

 

コロナ渦にあっても、対策を徹底して対面講義を続けています。寒い日はコート着用で教室の窓を開けました。今日現在まで、受講生から感染の連絡はありません。変異株も予断を許しません。くれぐれも体調に留意して自分と御家族を守ってください。

 

さて、立命館大学経営大学院に着任して16年目の春を迎えました。

今を去ること47年前、社会人としてのスタートは、山一証券でした。当時の証券外務員は売買手数料や投資信託委託料等を競います。転換社債や電力債が出始めた頃は、担保付きかつ高金利で、丁寧に利点を説明すると営業成績は上がり社内表彰も受けました。しかし、当初一年といわれた営業からエコノミストを目指す事は不可能と気付きます。オイルショックで日本経済が疲弊した頃でした。

別の人生を模索した私は会計士事務所に勤めます。一通りの仕事をこなせるようになると、上場企業の仕事に携わることに手ごたえを感じます。経験した経理・財務の実務は後々まで役に立ちました。

そんな或る日、ソニーの中途入社募集の新聞広告を見ました。試験は六次まであり、採用された中で最も若かったのが私です。25歳でした。後に、面接で全ての方々が推してくださったと聴き、人の縁を感じました。入社時は経理に配属、希望が通って経営企画に異動してからは多忙な日々が続きます。そして、米系大手コンサルとの契約直後からプロジェクトメンバーに選ばれました。それからは彼らの手腕に目を見張るような毎日でした。

当時のMBAは海外留学が前提で現在よりはるかに高い評価を受けていたのです。それでも実務では負けないと奮起しました。色々あって、社内外の個性あふれる方々から叱咤されたり激励されたりしたものです。

大賀社長室の前には「モネの睡蓮」が架けられていました。その溶け合うような青と緑、初めて一人で入室する時の緊張を思い出します。未だ20代でした。堂々たるバリトンの響きが耳に残るようです。

今にして思えば、ソニーでの私は単純に過ぎたかもしれません。しかし、自分なりに筋を通してきたつもりです。だから悔いはありません。仕事の厳しさも達成感も知るのが実務家教員だと考え、今日に至ります。

現在、講義を実りあるものにしたい一心で準備に明け暮れる毎日です。ゼミの濱田研究室からは、上場企業30名(役員6・部長7)、未上場企業16名(役員2・部長5)、経営者12名、コンサルティングファーム等5名の総計63名を輩出見込みとなりました。(海外駐在は4名、外資系に3名が勤務しています。)

昇進や業務拡大のみならず、それぞれの日々の充実を嬉しく思います。地位や収入、権力に固執して道を誤る事の無いように教えてきたつもりです。

 

ゼミはラテン語のSeminariumが語源で「苗床」という意味です。独ゲッティンゲン大学Johann Matthias Gesner(1691-1761)が創設したと伝わります。我国が殖産興業を目指した頃、東京帝国大学に招聘されたHeinrich Waentigが1910年から導入しました。

 

濱田研究室の目的は即戦力・発想・知性・感性を磨く事にあります。経営実務を想定した討議を重ね各人の可能性を引き出します。人生を変えられる事は、修了生達の躍進が示す通りです。

 

今年も、昇進昇格が相次ぎました。誠実に周囲への感謝を忘れず、努力を怠らない人には必ず道が開けます。謙虚に自己分析し、能力を高めるのが早道かもしれません。努力の方向さえ見極めれば、転機が来ます。私はそんな人を目のあたりにしてきました。

 

迷いの中にいる時は焦らない事が肝要です。一時は小賢しく立ち回っても、いずれは本性を見抜かれるのが世の常です。現実の不条理を知る社会人が再び学ぶ事で得る力は自信をもたらします。悔しさをエネルギーに変えていけば良いのです。やがて真実が明らかになる時、本当の人の値打ちがわかります。

 

実は、幼い頃の私は内気でした。

小学校高学年頃から勉強が面白くなり、積極性が芽生えたのかもしれません。見守ってくれた先生を有難く懐かしく思い出します。

 

本年度は、競争戦略経営政策ビジネス開発オーナーシップの4科目を担当します。

理論のみに支配された経営は脆弱なものです。困難に遭遇した時、経営者の力量が命運を分けます。複合的な見識が必要な現在において、全科目とも経営の実務に活用できるメッセージを発信しています。

 

30年近く勤務したソニーは、今年度からソニーグループと社名を変えています。2003年のソニーショック・2015年の無配転落を経て、蘇った古巣を誇りに思います。

 

恩師、大石岩雄先生のゼミで学んだ「経営のフレームワークや実践の哲学」は現在も全く色あせておりません。厳しくも温かい御指導でした。

亡き恩師に恥じない指導を心がけています。

 

 

2021年4月

 

学校法人 立命館 理事補佐(兼)

立命館大学 大学院 経営管理研究科

教授 濱田 初美